優しいホモたち

この辺にぃ、急に虚しさを感じる人たち、来てるらしいっすよ!

後輩ちゃんが娘のようにたまらなく愛おしい話

おっさんさぁ

大学生の頃、オーケストラの部活やってました。
4年生になった頃には引退ってかたちで、前期は部活にほとんど出てなかったんです。

それなのに、まったく出会ってもいないし、会話すらしたことないのにはじめからすんごく人懐っこくしてくる後輩がいたんです。
その年に新入で入ってきた背の小さいカワイイ子です。

自分では自分のことひねくれてる奴だなって
いつも文章や頭の中で考えたことを振り返ると、自己評価では温もりに欠けてる人間だなぁって自分のことはいつも思ってました。今でもなかなか温もりの伝わりにくい性質をしてるなと思ってます。

だから恋愛に限らず、人間関係では欠けてる温もりや人間性が時に人を傷つけたり、追い込んだりしてしまうこともあり、せめて、態度や行動で、人を大切にできたらなって、その時は考えていたんです。

気の利いた言葉とかはかけてあげられないけど
みんなが部活で楽しいと感じてもらえるように
一生懸命、おっさんなりに考えて、バイオリンはこうすれば面白くなるって先生から習った技を教えたり、音楽の醍醐味とはなんぞや?とオーケストラを知らない子にその楽しみかたを伝えたり。

そんな“種蒔き”をしながら過ごしたのが現役です。
それからは、引退してすっかり関わりが減りました。

そんな折、
お前の噂をしてる後輩がいる。
お前に興味があるって奴がいるぞ!
会いたがってるぞ!

噂が耳に舞い込んできます。
種蒔きの成果が出たと思いましたが
でも、僕としては部活内の環境保全が今後とも続いてくれることが目的であって、良い環境で大学生活の4年間を楽しんでもらいたいから、種を蒔いていたんです。
ほんとに心から、大学の4年間の部活で過ごす時間の重みを考えると、こんな部活になんか入らなきゃよかった!って、すごくもったいないし、振り返ったときに嫌な気持ちに、憂鬱になってほしくない。
大学の頃を思い出すたびに、そんな風に思うのなんて、虚しすぎるって、純粋にあの頃の僕は考えていました。

そして、その後輩ちゃん。
会う前からほんとに僕に会うのを楽しみにしてたり、周りに僕のことを「私、あの先輩なんか好き!」とか言い放ったりしてたみたいで。

恋愛はもういいんだけどな…。
対メンヘラ戦の傷と、教訓から
好きなんて気持ちはまやかしだと結論付けて
あの時の僕はそんな風に冷めた目で見てました。

でもなんというか。

好きってこういうことなのかって。
彼女の行動や考えに触れるうちに思うようになっていきます。

まず人前で平気で何も臆せず僕の写真をとる。
僕が壇上で卒論の研究依頼をしにとある授業にお邪魔してたら、
先輩を見つけたから撮った!と報告してくる。

なんで撮った?

文化祭の時期には
僕は嫌な思いでしかないし、絶対行かないと決め込んでいました。
後輩ちゃんがミネストローネを作るから遊びにこい、チケットを完売させなきゃいけないから先輩もミネストローネを食べにきてださいよ!と建前口上を照れ隠しにする本音が見え見えなのに、隠せてるつもりでせがむ。

そんな見え見えで「完売したいから」なんてよく言うよ。

この時点で、僕の心の氷が溶けていくような気がした。お父さんのことを大好きな娘みたいだと思うようになります。彼女に対して親心の、愛情のような何かを抱く。
あふれでる「好き!」を小さな身体全体を使って表現してくるのがたまらなく愛おしく感じたのもこの頃から。

また、僕が大学の練習部屋でバイオリンの練習をしているのを発見すると押し掛けてくる。ニッコニコしながら、でへへと笑って「せんぱぁ~い」と押し掛けてくる。

何か用か?どうせ見かけたから突撃してきたんだろ?用がないなら早くでてけ。
でも、言葉とは裏腹にもう愛しくてたまらない。あえて冷たく言うけど、その言葉にはちゃんと、君が来てくれて嬉しいよという気持ちがあるからこそ、愛を込めて皮肉を言うのです。彼女も分かっているのでニコニコしながら出ていきます。見つけたから会いに来ただけ、ほんとにそれだけなのです。
用があるときはもっと分かりやすく面倒くさい。

そんなやり取りがすごく楽しかった。

気づいたら僕は彼女に、恋愛感情とはまた何か違う、初めて感じる気持ちを抱いていた。きっと娘でもできたら、こんな気持ちで成長を見守って、日に日に大人になっていく姿に喜びを感じるんだろうな、と。

でも、彼女は僕の娘でもないし
ましてや、恋人でもない。
それに恋愛感情でもない。

なのに、この感情は何だというのだろう。

愛おしい。

それがぴったりと当てはまり
これがその気持ちなのかと初めて知ったのがその時

こんな気持ちに今まで付き合ってきた人とさえ
なったことがないのに、付き合ってもいないし、出会って何ヵ月と経ってないのに、おかしなこともあるもんだと不思議に思いました。

それから2年。
好きという感情を冷めたような熱しているようなよくわからない気持ちはいまだにここにあるままだ。

僕も卒業してしまい、すっかり部活に関われなくなり、僕が蒔いた種も出尽くしたのか、良い環境とは言えなくなっていました。

後輩ちゃんはあの頃の新人ではなく
もう後輩ちゃんが、その後輩に教えるようになっていた。

でもその後輩ちゃんの顔にはあの頃の笑顔はない。
部活の雰囲気も、楽しいものとは程遠い、義務感からなぜか部活をやるような始末。

こうならないために僕は種蒔きをしてきたのに
こんなつまらない時間を過ごして、後悔して欲しくないと時間を無駄にした、嫌な思い出になってしまって後から振り返ったときに、憂鬱になってほしくなかったから、種を蒔いたのに。
僕が教えてきたことは何だったんだろう。

すごく虚しい気持ちでいっぱいで、胸が張り裂けそうになりました。

何よりも、後輩ちゃんに久しぶりに会ったらば、僕が一番聞きたくなかったであろう言葉を聞くことになってしまった。

もう部活が楽しくないです。
いつも笑顔を作らなきゃいけない
こんなはずじゃなかったのに。

「私はこれからどうしたらいいですか?」

涙を目に浮かべながら彼女は僕に問う。

僕は、その時、僕のしてきたことの正しさを問いました。本当にそれで良かったのか?もっとできたことはあったんじゃないか。

いつもなら、軽口でも叩いて励ましてやっただろうし、間違いなくかつての僕なら、軽率な言葉で彼女を傷つけてしまっただろう。

でも今は、とにかく落ち着かせるのが先だ。
それから軽口でもなんでも叩けば良いさ。

自分のしてきたことを振り返りながら、狼狽える後輩ちゃんと向き合って、彼女が一人で抱え込んでいたであろう悶々とした気持ちを一つ一つ引き出すことに集中した。

自分が空回りしてしまってること
家族の問題もあって手が回らなくなってること
部活では悪口・愚痴の応酬が起こってしまっていること
なんとかしてみようとしても空回りして、余計に悪口の対象になってしまって逆効果だったこと。
自分がこだわりすぎで、みんなの邪魔になってるのだと恐れていること

小さな身体はもうボロボロなのは明らかだった。
それでも僕と話して打ち明けているうちに少しずつ落ち着きは取り戻したのか、僕が部活に対する熱意を冗談っぽく語ると、「せんぱい、面倒くさ」と腫れた目をこちらに向け、いたすらっぽく作り笑いをして僕を煽り始めた。もう一歩だ。

そこで時間が来てしまう。
もう戻らなければと彼女は言う。
部活に出る気力がなくて、遅刻してきたらしい。
だからそろそろ戻らないと、でもあんなところ戻りたくないですと遠慮なく本音を語る。その顔にはもう作り笑いはなく、影のある表情だった。

しかし僕に向き直ると今度はちゃんと笑顔を向けて言った。

「こんなに遅れていったのは先輩のせいってことにします。先輩のこと悪者にしても…いいですか?」

勝手にしろ不良娘。
先輩に家族の問題で長話されちゃって、出たくても出れなかったんだ~、まじさいあく~気持ち悪かった、とかって言っておけば良いだろ?
僕はまた皮肉に愛を込めて、言葉を贈った。
もちろん、良いに決まってる。
先輩はもういくら悪口言われようと卒業してるから痛くも痒くもない、お前さんの痛みをかわって受けられるくらいならそうしたい。
でも、このあとの2年も君には残ってる。
この環境であと2年もやっていく君の苦痛に比べたらなんてことはない。

そんなこと、言葉になんかできるはずなかった。

そしてお別れ間際に後輩ちゃんが言う
なんでこんなところまでついてくるんですか?
きょとんとさっきまでの調子が嘘のように上目遣いで僕を見上げてくる。いつものことだ。何も考えてないとき、彼女はいつもさりげなくそうする。

ということは、少しは気も晴れた。
そういうことにしておこう。
この子は頭空っぽの方がカワイイ。

あれだけ気持ちも引き出したのだ。
たとえ、このあとの部活の時間が孤独でも、彼女は本当には孤独じゃない。でもその時間、俺がいてやるわけにはいかない。

考えるまでもなく、言葉にするまでもなく

横を向く彼女の頭をずっしりと重みを乗せて
撫でてやった。

送り出さねばならぬ
こっちの気持ちも考えろよ。

「じゃあな!頑張れよ」

後輩ちゃんが全身を使って喜んでるのが感じられた
本物の笑顔で後ろ手に去る僕に何かを言っていた。

ありがとうございます!また今度私の…

そんなこっぱずかしいことをしてエールを送った自分に言い知れぬ気持ち悪さと、これでよかったと思う気持ちと複雑な気持ちに苛まれている僕にはそのすべては耳に届かなかった。

今度…なんだろうな。
また会うときまでちゃんと耐えてろよ。

後輩ちゃんがたまらなく愛おしく感じた。