大人になると忘れてしまうこと
後輩ちゃんに呼ばれて昨日は大学オケの新人歓迎演奏会に賛助として参加しました。
集まった新人たちは18人。
おおなんだ、すごく集まったじゃないか。
でもなぜだか僕の心は晴れやかではない。
終わったあと、後輩ちゃんに良かったねと帰り際に伝えたのです。
その時、僕は彼女に、冗談っぽく、
これも俺の助力のおかげってやつだな?
と茶化して言うと、
はいはいそうですねー
そして少しムカッとする僕。
そうですねーっておまえな、俺がどれだけ…。
お前そんな適当なこと言ってさ!
ここで僕自身、何か胸につっかえた気持ちがするけど、それが何か分からない。言葉に出来ない。
少し思案してるうちに後輩ちゃんがそこら辺にあったポストカードを僕になぜか押し付けてくる。
「何これ?これゴミじゃないの?」
あまりの突拍子のない行動にまた笑ってしまう。
さっきそこら辺から拾ったのを俺は見たぞ?
というか僕は君から「ありがとう」って聞きたいんだけど!
「ゴミじゃないですよ!」
じゃあなんだこれは。
「先輩、帰っちゃうんですかぁせっかく私が作った炊き込みご飯!食べていかないんですか?」
ああ帰るよ。俺が居る必要はないからね。
毎年新人歓迎演奏会のあとに、炊き込みご飯をうちの部活では作っている。
今気づく。
後輩ちゃんにありがとうと言ってもらうには、こんな押し付けがましい、俺がやってやったんだ、時間を割いてまで協力したんだという気持ちでは、決して彼女はありがとうなんて言わない。
いつのまにか忙しい毎日に流されて、こんな押し付けがましいことをしてしまっていた自分を恥ずかしく思う。
あのときにすぐ、胸に何かつっかえたような気持ちになったときすぐに気がつけなかったことにも。
そうだ。
後輩ちゃんにありがとうと言ってもらうのはそんなに難しいことではない。後輩ちゃん、ありがとう!美味しいよ!とか、作ってくれてありがとう!とか、こちらが本当に嬉しかったことを素直に告げれば、彼女はその素直な気持ちに反応して、うふふと笑って来てくれてありがとうございますと、いつも言ってくれていたじゃないか。
だから僕が俺の助力のおかげ…なんて言ったとき、彼女からありがとうという言葉が引き出せるわけがなかった。
僕は演奏会に君から呼ばれなければ参加するつもりじゃなかったんだという気持ちがあることに今気がつきます。
そんな風に手を貸してくれたってちっとも嬉しいわけがない。後輩ちゃんがそこまで見抜いていたかは分からないけれど、僕は彼女にありがとうと言ってもらいたいがために、彼女の笑顔が見たいがために、また間違ったことをしてしまった。
僕が「俺の助力のおかげ」と言い
後輩ちゃんはそれに対して「“私が”作った炊き込みご飯」と返す。
やっぱり見抜いているじゃないか。本人がどこまでそれを自覚してるかは知らないけれど、確実に感知してる。
大人になると忘れてしまうこと。
俺のおかげだ、俺がやってやったんだ。
気づかないうちに、苦労してると、苦労させられていると錯覚する。だから日々の言葉が変わっていく。思いに、ずーんと黒いものがたまっていく。
そんな思いがある限り
後輩ちゃんに僕は決してありがとうと言ってもらえはしない。
人からありがとうと言ってもらうにはどうしたら良いのか?ありがとうと言ってもらうには、その前にこちからありがとう、こんな風に良くしてくれて、ありがとうと、有り難かったこと、嬉しかったことを伝えることだ。
そして何より褒めることだ。
それを僕は、いつのまにか、ありがとうと感謝することを忘れていた。君に呼ばれたから、こうして演奏が出来て、また仲間に入れさせてもらって…
そこにありがとうと言わずして、こうして過ごさせてもらってることにありがとうと言わないで、どこにありがとうと言う?
後輩ちゃんは決して言葉にはしないけど、そういうことには人一倍敏感で、繊細な感覚を持っている。
そして、僕が胸につっかえるような気持ちがしたのもそのためだ。
ありがとうと言わないで、ありがとうと恩着せがましく言わせようとした。僕もムカッとしたが、むしろ彼女の方がムカッとしたのだ。
僕こそ、後輩ちゃんにはありがとうと言うことがたくさんある。
後輩ちゃんだけじゃない。
僕を助けてくれる、身の回りの人にもありがとうと言うことはたくさんある。
どうしてそんな簡単なことも分からなくなってしまうのか。
なぜ、恩着せがましくなってしまうのか。
心が鈍ってる。
そんな風に、やってやったんだなんて言われてまで、やってほしくないでしょ。
それならはじめからやらなくて良いし、協力を頼む側だって頼まなければよかったと思う。
それは感謝される方法が間違ってる。
出来ることを出来るだけやり、ありがとうと先に伝える。みんな、ありがとうと言われること、褒められることに飢えている。
僕もいつしか、望むばかりになっていた。
こうなるのが嫌で逃げ回っていたというのに。
ここに立ち向かわない限りは、ずーっと逃げ続けなくちゃいけなくなる。
もう逃げなくても良いだろう。